東京の新名所誕生。

 3月30日に東京ミッドタウンがオープンするそうです。テレビや雑誌は騒ぐのでしょうね。なんでも東京の新名所なんていうふれこみですが、個人的には「お腹いっぱい的施設の追加」にしか見えません。「丸ビル」の時は強烈な新鮮さがありました。六本木ヒルズのときは丸ビルを凌ぐスケールにワクワクしたものです。それが「表参道ヒルズ」あたりからは1回見ればいいか的になり、「豊洲」では「うーん」となり、その後のプロジェクトなんで、この手の街開発にはいい加減うんざりです。
 古いものをサラ地にして、その後に大方はタワー型施設。たいていはオフィスと商業施設、住居施設それに文化施設をくっつけて、さも「新しい街」です的提案。オフィスには大企業や急成長の新興企業が入る。商業施設は大資本からなる毎度おなじみ的チェーン店が少しおしゃれになって入居する。住居施設は高層マンションで、勝ち組と思い込んでる人たちがこぞって高い階を目指して入居する。文化施設はほんとに施設でそこには「文化」が置かれているだけ。
 こういう施設(決して街とは思わない)に押し掛ける人は何を求めるのでしょう。新しい情報に触れる事による安心感が欲しいでしょうか、それとも単なる話題のネタなのか。ただ、取りあえず行ってみるだけか。みんなが行くから行ってみるのか、ほとんどがそんなところでしょうか。確かに観光客にとってはある種、現在の東京を知るには手っ取り早い手段です。実際、私も海外に行くと、一応、こんな施設は見てみちゃいます。でも、それはどこでも同じもので、別に東京でも、ベルリンでも、ニューヨークでもどこでにでもあるような、地域性に乏しいものに過ぎないことに気づくだけです。
 東京はどこまでこんな「塊」を作り続けるのでしょうか。古いものを壊し、そこに前、なにがあったという記憶を消し去る。小さいものたちの何百、何千の個性、意思や思いを大きな少数のものたちで再構成する。そしてそれは恐ろしいほど均質。まるで「がん細胞」のように。あるいは美しい風景画を黒のペンキでべた塗りしてしまう暴挙。よくよく考えれば企業のM&Aによる手法と一緒ですね。
 街は変化するものであり、変化しなければ消えゆくのみという切迫感もう止めにしませんか。そして東京を食い荒らすような業績、実力主義型サラリーマン的開発もうやめましょう。東京を歪な街にしてしまうだけです。東京の下町で生まれ、東京の下町で育った者からするともううんざりです。別に街は変わる必要はないのです。10年後も20年後も同じ風景でもいいんです。それを前提にすると実はいい感じな変化を私たちは手に入れる事ができるはずです。建物は時間を経ることにより、より自然物に近づくでしょう。(今、こんな建物がどんどん壊されています。)道や家の周りには古さを増し、様々な植物が自生をはじめ、これまた周囲を一体化していきます。その中で、小さな変化が不連続で発生することでしょう。家が改修されたり、住む人が変わったり、あるいは商売が変わったり。多様な意思が街に放たれ、様々な個性が、様々な生活をおくることでしょう。ひとつの街の中での多様性。さらに個々の街同士での多様性。様々なレベルで多様性が産まれるはずです。いろんな街がある。そしてその街の中にも、いろんな人が住み、いろんな商売、店がある。そしてその店はきわめて個性的。古さ、時間を基盤に新しいものが産まれ、育つ街。過去から現在、そして未来へのつながりが見える街。そんな非効率でわかりにくい街、その中で暮らす為には人との調和、ふれあい、理解が必要に迫られ、必然的に賑わいが産まれます。「自分優先」では生きていけません。どうしたって「心使い」が必要になります。また、一方で切磋琢磨だって自然に芽生えます。人はどうしても負けず嫌いのところがあるのはしょうがありません。でもこれは勝ちと負けを明確に区分けするものでは無く、勝ったり、負けたり。そこそこ勝ち、そこそこ負ける。なぜなら、調和こそが多様性の中で暮らすことの絶対条件なので、一人勝ちなんかは下品ということになります。「和の心」です。「街づくり」が「人の心」を変えていく、と言う事だと思います。「再開発的街づくり」あっての「今の日本」「今の東京」なのではないでしょうか。どうしても開発したいのなら、せめて「今あるものを活かして、ニーズに対応する」という「リノベーション的街づくり」でお願いしたいところです。去年、ドイツ、オランダを旅したとき、古い建物の中が、実はめちゃくちゃモダンに改装されているの光景を多く目にしました。こういう資本の投下なら街に馴染んでくれるんですが。
 
 

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